何もしないケアが肌の回復力を高める

「ふだんのスキンケアってどうしたらいいですか」

皮膚の症状が治りかけた患者さんに、あらためてこう聞かれることがあります。

あるいは、湿疹やニキビの真っ盛りで肌の扱いに困っている患者さんにもよく聞かれる質問です。

美容やアンチエイジングの目的で来院された患者さんからも同じような質問をよく受けます。

みんな、それぞれ肌の状態や抱える事情は違います。

症状に応じて特別な注意点があれば伝えますが、それとあわせて、このように答えています。

「できるだけ、何もしないであげてください」

わたしは現在、東京女子医科大学にある女性生涯健康センターの皮膚科でさまざまな女性の患者さんを診ています。

痛みや腫れをともない、つらくて不快な痕状を抱える患者さんもいれば、とりたててお薬での治療が必要な皮膚トラブルがあるわけではないけれど「シミや毛穴が気になる」「もっときれいな肌になりたい」「老化をなんとか食い止めたい」「化粧品が合わない」「肌が敏感」とわたしのもとにやってくる患者さんもいます。

患者さんの症状やニーズはほんとうに幅広いのです。

でも、治療が必要な場合は別として、ほほ共通しているアドバイスがあります。

それは「できるだけ何もしないであげて」という大原則です。

患者さんがこれまでにやってきたスキンケアの話をうかがうと、雑誌やテレビからスキンケアの知識をつぎつぎ取り入れては実践し、情報過多、ノウハウ過多の頭でっかちなスキンケアになっている人が少なくないように思います。

お肌を大切にしてあげることは、もちろんとてもよいことです。

ただ、少し勘違いされていることがあります。

それは「肌はケアすればするほどきれいになる」という思い込みです。

そもそも外からおこなうスキンケアには、おのずから限界があることをご存じでしょうか。

皮膚というのは大変な優れもので、外界の温度や湿度をみずから感じとって、寒ければ毛穴を締めて体温の放出を防いだり、皮脂を出して乾燥を防いだりといろんなはたらきをしています。

肌はみずからうるおい、古い細胞を捨て去り、新しい肌細胞を育てていく自活力があります。

その営みがうまくいっている肌を、この本では「自活肌」と呼びましょう。

過剰なケアは、肌本来の機能を邪魔しかねません。

ケアをするのであれば、肌が欲しがるちょうどよいケアだけをしてあげることです。

そうすると、自活肌のサイクルが整っていき、少しのケアできれいで健康な肌が維持できるのです。

スキンケアには限界がある

皮膚は「ひとつの臓器である」という考え方があります。

なぜ、このようにいわれるのでしょうか。

それは、皮膚は一枚の包装紙のような単純な組織ではないからです。

皮膚を大きく分けると「角質層表皮真皮」の3層構造からなります。

この3層ユニットは、たがいに協力し、連絡をとりあいながら皮膚という機能をまっとうしているのです。

お顔に手を当てて、肌をさわってみてください。

手でふれたり、鏡でながめることのできるお肌、それは皮膚のごくごく表面で、「角質層」と呼ばれる部分です。

中学校の理科の授業で、細胞にはDNAの詰まった「核」があることを習ったかと思います。

日の丸弁当の梅干しのように、核は細胞の中心に鎮座しています。

肌の表面にある角質細胞には、もはやこの「核」が存在しません。

細胞から核が消滅して、おせんべいのようにぺったんこになった、ほぼ死んだ細胞なのです。

その平たい細胞がいくつも重なって、肌表面の「角質層」はつくられています。

そして、細胞同士が離れないように、そのすきまは「角質細胞間脂質」というセラミドなどの脂質で埋められています。

このように、角質細胞と脂質ががっちりスクラムを組んだ角質層は、ごくごく薄いラップのような役割をはたしています。

厚さはごく薄いけれど、外からの異物の侵入を防ぎ、体内の水分が蒸発してしまわないように強力にブロックしてくれているのです。

なぜ、角質層には、これだけのバリア機能がそなわっているのでしょうか。

それは、角質層の下にはとても大事な組織があるからです。

それが「表皮」と「真皮」です。

「表皮」には、表皮細胞を生み出す母体(基底層)があります。

表皮でつくられた細胞はいずれ角質になります。

また、日焼け現象を起こす「メラノサイト」もここにあります。

その表皮の下には、皮膚の本丸ともいうべき「真皮」があります。

皮脂腺、汗腺、神経、血管など重要な生理機能をいとなむ器官が密集し、その間はコラーゲンやエラスチンなどのクッションで満たされています。

たとえば、角質層に傷がついて、そこから真皮に異物が入り込んでしまったら大変な騒ぎになります。

侵入しようとする異物をやっつけようと、血液がわっと集まり、白血球が炎症を起こします。

これがケガなどでバイキンが入ったときに炎症や腫れが起こるメカニズムです。

それは異物の正体が、化粧品だったとしても同じことです。

基本的に化粧品に含まれる美容成分は肌表面にある角質層にとどまります。

もしも、化粧品が角質層をすり抜けて、真皮まで到達してしまったとしたら、その刺激によって肌は炎症や腫れを起こすおそれがあります。

つまり、外から塗った美容成分は、生きた組織である肌の深部まで、そう簡単に到達することはありません。

ほとんどは肌表面にとどまっているのです。

これが外からおこなう「スキンケアの限界」なのです。